一昨年開始したコホート研究の2年後追跡調査を実施し、149名の縦断データを得た。 2年間でのHbAlcの変化と各種認知機能指標(本研究で作成したエピソード記憶機能指標、MMSE下位項目得点)の変化との関連を検討した。対象全体では両者に関連は見られなかったが、75歳以上で平均血圧90mmHg未満の層ではHbAlc変化とエピソード記憶およびMMSE遅延再生の成績変化との間に有意な正の相関が認められた(脳卒中経験者を除外し、性と年齢を調整)。このような関係の生じるHbAlcの閾値は、例数の不足により検討できなかった。以上の結果から、高齢者においてはHbAlcの低下が認知機能の低下を伴う場合があることが確認された。因果の方向は特定できないが、仮に血糖値の低下が認知機能障害の要因となるなら、それが危惧されるのは高期高齢者で血圧がやや低い層であり、その影響が現れやすい認知機能領域の一つはエピソード記憶機能であることが示唆された。 本研究で測定したエピソード記憶機能は、社会活動性、記憶愁訴、認知機能予後と関連を有することが確認され、それ自体、高齢期の重要な健康指標であると考えられた。そこで、エピソード記憶機能の急速低下の予知因子を探索したところ、脳卒中、心疾患、糖尿病の既往が有意な要因であることが明らかとなった。記憶機能低下者の半数以上が3疾患既往者の中から発生していた。これら3疾患の予防と管理が、エピソード記憶機能の維持、しいては社会活動性や認知機能の維持のために重要であることが示唆された。
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