研究概要 |
ERasの標的遺伝子の検索のため,胃癌細胞株GCIYおよびERas遺伝子を高発現させたGCIYを用いたマイクロアレイ解析を行った.マイクロアレイ解析の結果,ERas発現はいくつかの間葉系マーカーの発現を誘導する一方で上皮マーカーの発現を抑制し,上皮間葉移行を誘導していることが示唆された.われわれはERasの発現により上皮間葉移行において重要な役割を果たしているmoleculeであるE-cadherinの発現が抑制される点に注目した.定量的RT-PCRおよびwestern blotを用いた実験においてERas発現によりE-cadheinの発現が抑制されることをダイレクトに確認した.さらに,われわれが独自に作成したヒトERas抗体を用いた胃癌組織の免疫組織染色を行い,ERas発現とE-cadherin発現の関連いついて検討したところ,これらの発現が逆相関していることを見出した。また臨床病理学的検討からERasの発現と胃癌肝転移に有意な正の相関を認めた.ERasの機能解析の結果からは,ERas発現により胃癌細胞の足場非依存性発育能,浸潤能が増強することが示された,以上の分子生物学的検討,および臨床病理学的検討の結果からERas発現は胃癌の転移能を増強し,肝転移を誘導することが示唆された.9種類の胃癌細胞をDNAメチル化阻害剤,5-Aza,またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤,Tricostatin Aで処理し,ERas発現の変化を検討した.いくつかの胃癌細胞株において,薬剤で処理後にERas発現が誘導され,ERas発現はエピジェネティック修飾によりコントロールされていると考えられた.
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