研究概要 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は再生医療応用に大きく貢献しうる細胞材料として期待されている。iPS細胞の安全性に向けた研究と有用な移植細胞の分化誘導技術の開発が再生医療実現への両輪となると考えられる。研究代表者らはこれまで、ES細胞を用いた心血管分化研究を行ってきた。すなわち、ES細胞からFlkl陽性の中胚葉レベルの細胞を分化誘導し、そこから血管を分化させる新しい分化誘導系を開発した(Nature, 2000)。また同細胞を用いて単一細胞から心筋細胞を誘導する新たな分化法を開発するとともに、新たな心筋前駆細胞の同定に成功した(FASEB J, 2005)。心筋ペースメーカー機能を定義しているイオンチャネルを同定し心筋多様化機構を明らかにした(Yanagi, Stem Cells, 2007)。本研究は、心筋再生医療に応用可能な新しい心筋前駆細胞を分化誘導・純化する方法を開発し、心筋再生医療を実現することを目的とする。1)iPS細胞を用いた心筋分化系の構築、2)iPS細胞における心筋前駆細胞の同定、3)iPS細胞における心筋前駆細胞の特異的分化誘導と純化、4)iPS細胞由来心筋前駆細胞の動物モデルへの移植実験、5)GMP基準での細胞調製に向けた分化誘導・純化法の改良、の5項目の検討を行う。平成20年度においては、マウスiPS細胞からの系統的心血管細胞分化誘導システムを構築するとともに(Narazaki, Circulation, 2008)、免疫抑制剤サイクロスポリンAがマウスES細胞からの心筋および心筋前駆細胞を強力に誘導することを明らかにしている(Yan, Biochem Biophys Res Commun, 2009)。Narazakiの論文は2008年Circulation誌基礎生物学部門の最優秀論文賞に選ばれた。このように着実な研究計画の進展を認めている。
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