スフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)は、ゴルジ体において、セラミドからスフィンゴミエリンを合成する酵素であり、この酵素を欠損させたマウス(SMS1-KOマウス)では生体内における脂質代謝に異常が生じ、重篤な症状を発すると推定される。実際、昨年度までの解析により、SMS1-KOマウスの示す『痩せ』の表現型は、脂肪組織の機能異常に起因する可能性が示唆されていた。そこで、本年度の研究においてはSMS1-KOマウスの脂肪組織の機能に着目して解析を行った。まず、脂肪組織の切片を調べたところ、SMS1-KOマウスでは脂肪細胞が著しく萎縮していることが明らかになった。また、メタボローム解析により脂質組成分析を行ったところ、脂肪組織においてはスフィンゴミエリン量が減少し、セラミド量が増加していることがわかった。恐らくは、SMS1を欠損させたために、スフィンゴミエリンに変換されなくなったセラミドが細胞内に蓄積したためと考えられる。さらに、セラミドは細胞死を誘導することが知られていることから、SMS1-KOマウスの脂肪組織では恒常的に細胞死が起っている可能性が考えられたため、マクロファージの増加を調べたところ、SMS1-KOマウスの脂肪組織ではマクロファージの浸潤が有意に増加していた。このことから、SMS1-KOマウスの脂肪組織では恒常的に細胞死が起っていると推定された。また、セラミドを介した細胞死は酸化ストレスを伴うことが報告されていることから、SMS1-KOマウスの酸化ストレス状態を調べたところ、SMS1-KOマウスの尿中には酸化ストレスマーカーである8-OHdGが有意に多く検出された。以上の結果から、脂肪組織におけるセラミド量の増加に伴う酸化ストレスの亢進と細胞死がSMS1-KOマウスが示す『痩せ』の原因であると推定された。
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