研究概要 |
マイクロRNAは遺伝子発現をmRNAからタンパクへの翻訳レベルで抑制することが線虫で証明され,ヒトなど高等生物でも保存されている遺伝子発現制御機構の一つとして知られている.造血系悪性疾患でその欠失が報告され,固形癌の多くでもその発現異常が報告され,化学療法感受性や手術後の再発などの生物学的性質との相関が最近報告されている.申請者らは以前よりヒト癌におけるDNAメチル化による遺伝子発現抑制を研究してきたが,DNAメチル化によるマイクロRNAの発現低下が報告され始めるに至り,今回ヒト肺癌におけるマイクロRNAのDNAメチル化による発現低下を網羅的に検討した.まず英国サンガー研究所のマイクロRNAデータベースより678個のヒトの全マイクロRNAの情報を得て,染色体上にマッピングし,DNAメチル化による転写制御の中心となるCpGアイランド上にある,CpGアイランドの下流1000塩基以内にある,CpGアイランドをプロモータにもつ遺伝子のイントロンにあるものとして,常染色体上にある55のマイクロRNAについて,定量的RT-PCRを用いて検討を行った.対象とした細胞は腺癌細胞株4つ(EGFR突然変異あり2種,なし2種)と扁平上皮癌細胞株2つで,DNAの脱メチル化剤5-aza-dC処理前後で発現の増多のある14個のマイクロRNAについてヒト原発性肺癌15例(腺癌EGFR変異あり5例,無し5例,扁平上皮癌5例)で検討を行い6つのマイクロRNAが肺癌でDNAメチル化により発現低下が起きていることが示唆された.現在DNAメチル化の状態および標的遺伝子の発現低下について細胞株や臨床組織での検討を行っており,平成21年度にはその全貌を明らかに出来るものと考えている.
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