アルブミン尿は腎機能低下、脂質異常や高血圧などとは独立した心血管病の危険因子である。しかし、なぜ極軽微のアルブミン尿が心血管病、特に脳卒中の危険因子になるかの機序は明らかではない。本研究の目的は、腎臓と脳の循環には極めて類似した循環構造があり、その循環動態がアルブミン尿と脳卒中を結びつける基盤であることを明らかにすることである。そこで、脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHR-SP)の高食塩を負荷して、アルブミン尿の発症と脳卒中の関連を検討した。SHR-SPに高食塩食を与えると10週前後から尿中にアルブミンが出現し始め、尿アルブミン排泄が増加し、14週前後には脳出で死亡する。そこで12週の時点において、脳と腎臓の組織障害と尿中アルブミン量との相関を検討した。尿中アルブミン排泄量の多いラットにおいては腎臓傍髄質糸球体障害が強かったが、アルブミン尿の少ない群では軽度であった。腎臓の表在糸球体では両者ともに病変は軽度であった。一方、中大脳動脈の穿通枝の病変は尿アルブミンの多い群で傷害が強く見られた。尿アルブミン排泄量と傍髄質糸球体障害の程度、尿アルブミンと穿通枝の血管傷害の程度は相関していた。傍髄質糸球体輸入細動脈は太い動脈に近い為に最初に傷害され、その結果、尿にアルブミンが漏出すると考えられる。穿通枝も太い血管から直接分岐する。このように、太い血管に近い細動脈をStrain vesselと呼ぶことを提唱する。Strain vesselは進化の過程で、食塩摂取が少なく、循環障害に陥りやすい環境で、重要臓器の重要部分の灌流を維持する為に不可欠のものであったと推論される。
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