研究概要 |
Sup35は,その異常形コンフォメーションを正常形へ伝播して自己凝集し,アミロイドを形成する酵母由来のプリオン様タンパク質である。X線結晶構造解析法により,Sup35のアミノ末端のペプチド断片(^7Gly-Asn-Asn-Gln-Gln-Asn-Tyr^<13>)は,アミロイドの中核であるCross-β構造を形成することが明らかにされている。本研究では,プリオンタンパク質のアミロイド形成に関する知見を得ることを目的として,溶液中におけるこのペプチド断片の自己凝集挙動を調べた。 ペプチド断片を0.01Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し,種々の条件で攪拌しながら,波長400nmにおける濁度及び波長180~400nmにおける円偏光二色性(CD)スペクトルを経時的に測定した。また,得られた凝集体にチオフラビンT(ThT)を加え,励起波長450nmにおける蛍光スペクトルを測定した。 ペプチド溶液の濁度は経時的に増大し,CDスペクトルの波長225nm付近の吸収帯の出現及びThTの蛍光強度の増大が観察された。これらの結果から,β構造を有するペプチド凝集体(アミロイド)の形成が支持された。しかしながら,濁度やCDスペクトルの経時変化の様子は,ペプチド溶液の攪拌条件によって異なった。ペプチド溶液を攪拌子で激しく攪拌すると,わずか数時間で濁度およびCDスペクトルに変化が現れ,約24時間後には針状凝集体の形成が光学顕微鏡下で確認された。一方,ペプチド溶液を穏やかに攪拌すると,濁度やCDスペクトル変化の出現は遅延した。また,ペプチド溶液濃度の違いもペプチドの凝集挙動を変化させた。したがって,Sup35のアミロイド形成ペプチド断片の自己凝集は,ペプチド分子の衝突頻度に依存していると考えられた。これらの基礎情報は、キラー・コンフォメーションを標的とするプリオン感染イメージング薬剤の開発行う上で有用である。
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