通常型膵癌(膵管癌)の発生母地として、膵管構造中に誘導される癌幹細胞を想定し、膵発生研究成果より得られた、Sox9陽性未分化細胞から多分化能、自己複製能を有するptfla陽性膵幹細胞の分化こそが膵形成と膵癌幹細胞分化最重要段階と考え、どのようなシステムがptfla誘導に関わるかを解明することを研究の目的とする。まずはPtflacre/+; Rosa26rマウス胎生期前腸内胚葉組織培養による異所性膵形成モデルを用いたptfla上位誘導因子の同定を目指しているが、ここ1年間の研究では目的を達成できていない。一方、実験計画書では21年に実施予定としていた出生後のSox9陽性膵管細胞を分離後、初代培養を行う実験を既にスタートさせており、これまでに少なくとも内分泌細胞への分化誘導には成功しているが、ptfla誘導因子の同定には至っていない。しかしながら、膵管細胞・腺房中心細胞に限局して発現している成体膵Sox9陽性細胞がgenetic lineage tracingで生理的条件下でも腺房細胞へと分化していることは確認できている。これは正常の膵細胞維持にこれらSox9陽性細胞が供給源となっていることを意味しており、臓器特異的幹細胞研究としての成果といえるが、この分化過程で必ずptfla陽性のシグナルが入っていることを示唆している。萌芽研究として開始した当初の研究目的以外の収穫といえるが、同時に当研究の仮説を支持しており、今年度中の目的達成に努めたい。
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