研究課題
大動脈瘤は、無症状のまま進行し、破裂・突然死を来す原因不明の疾患であり、欧米における有病率は高齢者人口の約1割である。我が国でも年間約10万人の新規発症があると推定され、なお増加傾向にある。外科的手術が唯一の根治的治療法であり、小径大動脈瘤に対する効果的な治療法も無い現状を打開するためには、病態の解明と革新的な治療法の開発が急務である。また、より低侵襲の血管内治療でも、ステントグラフトの長期成績改善、適応拡大のために薬物との複合療法の開発が求められている。大動脈瘤病態は統合的な遺伝子発現調節による組織破壊であり、その制御により大動脈瘤の退縮治癒が可能である。本研究は、マイクロRNA(miRNA)が遺伝子発現を統合的に調節し、大動脈瘤病態を形成するとの仮説に基づき、治療標的となり得るmiRNAの同定を目的とした。野生型、JNK1ノックアウトおよびJNK2ノックアウトマウス由来の大動脈平滑筋細胞をTNFαで刺激、または野生型マウス由来の大動脈平滑筋をJNK阻害薬(SP600125)の存在下でTNFα刺激することにより、JNK依存性に制御されるmiRNA群の同定を試みた。miRNAを網羅的に解析するために、miRNAアレイ(LC Science社)を用いて解析を行ない、JNK依存性に発現が制御されるmiRNA群を同定した。さらにJNK1、JNK2特異的に制御されるmiRNA群も同定した。その結果、炎症、組織修復に関わる多くの遺伝子がmiRNAで制御されている可能性が示された。生体内でmiRNAの発現または機能を制御するためには、効率が良く部位(大動脈瘤)特異的な核酸導入システムの開発が必要と考えられる。本研究の成果を生かすため、今後は、部位特異的核酸導入システムの開発を進める予定である。
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