新規に開発されたコレステロールプルラン(Cholesterol-bearing Pullulane:CHP)を用いた癌の標的治療研究を行った。CHPは種々の物質を内包・放出できる性質を有し、また、細胞吸収率が高い物質である。この性質を利用し抗癌剤を内包させ、その抗腫瘍効果をin vitro、in vivoで検討した。(1)複数の肺癌細胞株を用い、蛍光色素を内包させたCHPの取り込みを確認、(2)各癌細胞へのCHPの取り込み条件を検討、(3)肺癌細胞株、胸膜中皮腫細胞株を用い、肺癌の治療に使用されるドセタキセル、パクリタキセル、シスプラチンなどをCHPに内包させ、その抗腫瘍効果を検討した。(4)肺癌の胸膜播種モデルマウスを作製し、抗癌剤を内包させたCHPを直接胸腔内に投与することで、その抗腫瘍効果を検討した。この際、効果の検討にはIn Vivo Imaging Systemを使用した。〈結果〉蛍光色素を利用した細胞への取り込み試験で、CHPは著明に細胞に取り込まれている事が確認でき、抗癌剤内包CHPの抗腫瘍効果も、抗癌剤単剤と比較して有意に高まることが確認できた。肺癌の胸膜播種モデルに対する抗腫瘍効果も、抗癌剤単独に比較し、有意に高い抗腫瘍効果が得られることがわかった。多くの肺がん患者では、進行期で癌性胸水・胸膜播種がみられる。一方、人口の高齢化により高齢の肺がん患者は少なくない。この様な高齢進行肺癌患者に対する抗癌剤などの積極治療は、その副作用より困難なことが多く、Best Support Careとならざるを得ない。今回の我々の研究では、抗癌剤をCHPに内包して投与することで、その効果の増強が確認できた。これはCHPを用いることで、抗癌剤の量を減量しても単剤使用時と同等の効果が得られることが示唆されたと考えている。抗癌剤の投与量が減量できると副作用の軽減も期待できるため、今回の研究の結果より、悪性胸水や胸膜播種を伴う進行性肺がん患者、特に高齢のため抗癌剤治療が困難な患者に対し、新しい治療法として用いる可能性が得られたものと考えている。
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