心筋組織内において、任意の場所に任意の長さで任意の枝分かれ等の形態を持つ血管腔を創成することを目的とし、ヒアルロンサンとヘパリンからなるゲルの紐を14Gのエラスターチューブに挿入した。動物実験として、9頭の成犬心筋内にエラスターを刺し、プシャーロッドを押し当てつつエラスターチューブを抜去することでゲル紐を心筋内に残した。ゲル紐挿入は1頭のイヌで3本行い心筋内で交差させた。さらに左頸動脈を剥離して下顎部で結紮切断し、その先端をゲル紐が挿入された部位に植え込んで、Vineberg手術と類似した操作で頸動脈への血流を心筋内へ導入した。対照としてエラスターを挿入するのみでゲル紐を残さない処置を3カ所ずつ行った結果、27本のゲル紐を挿入した部位の中で22本が開在し、5本が閉塞した。ゲル紐を挿入しなかった対照部位は全て閉塞した。開存部の管腔壁は一層の細胞に覆われ、ファクター8で染色される事から血管内皮細胞であると考えられ、血管形態を形成していた。ゲル紐を交差した部位では血管腔の枝分かれが形成されていた。【考察】心筋組織は筋細胞と栄養補給血管の内皮細胞からなる。筋細胞は自己修復ができないが、内皮細胞は細胞分裂が可能であり、組織障害が起きれば修復に動員される。従って心筋内に人為的に管腔を作ると、まず管腔壁の修復には内皮細胞が動員され、心筋細胞はそれを邪魔しない。管腔内にゲル紐がなければ、管腔内は血栓で満たされ、血栓の吸収と平行した肉芽形成が行われ管腔は閉塞するが、ゲル紐があってヘパリンの作用により血栓形成が阻止されれば、内皮細胞にはゲル紐に沿う管腔壁面のみに修復活動の場が限定され、その結果として管腔壁は内皮細胞に覆われて血管腔が自然に形成される。そしてゲル紐が吸収されると血管腔がのこる。【結論】心筋内にエラスターで孔を開けるという傷害を惹起させ、そこにゲル紐を挿入することで自然治癒力による自己修復で血管腔形成を誘導した。それに血液が流れると、冠動脈の創成となり得る。
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