研究概要 |
心筋組織内に糸こんにゃくの如き形状の生体内吸収性ハイドロゲルの紐をエラスター針にて挿入することによって、任意の方向、任意のサイズ、任意の分岐、を持つ血管腔を創成することに成功した(Noishiki Y. Method for inducing the growth of new arteries in the myocardium. J J Thorac Cardiovasc Surg, 54: 319-327, 2006)。創成した血管腔は内腔1mmでも開存し、壁は1週間で内皮細胞が完全に覆っていた。これまでの基礎研究の結果から、開存率は81.5%であり、閉塞の原因は解明されていない。また創成した血管腔に動脈血を送り込むと、元からあった冠動脈との交通で心筋組織内へ流れ込むが、この基本的考えを臨床で使用するには、ハイドロゲル紐を不溶化させる際における架橋剤の細胞毒性が最大の課題であった。また、ハイドロゲルが吸収される時期における抗血栓性賦与が次の課題であった。これらの解決で臨床使用可能な冠動脈創成法の開発を行うための基礎的条件を明らかにすることを目指した。 臨床使用の場合、ハイドロゲルの不溶化に使用する架橋剤の毒性が最も大きな障害となった。そこで本研究では、化学架橋剤を使用せずにハイドロゲル紐を作成する工夫を行った。その結果、ヒアルロンサンを急速に冷却し、そして解凍する、と言う操作を繰り返すことでビアルロンサン分子内に架橋が入る手法を転用することで、目的を達成することが可能となった。また一方、毒性の低い架橋剤としてエポキシ化合物を使用し、ハイドロゲル紐を作成することに成功した。次に、抗血栓性賦与では、プロタミンとヘパリンのイオンコンプレックスをヒアルロンサンのハイドロゲルの中に懸濁状に混在させることで、ヘパリンを極めて緩やかに放出させることに成功した。
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