筋ジストロフィー症はジストロフィン遺伝子の異常を持ち呼吸筋・骨格筋の障害をもたらし、患者は日常生活に大きな制限を受け且つ生命予後も不良である。我々はこれら筋疾患に対する根本的な治療法として、胚性幹(ES)細胞から筋細胞を分化誘導し、これを用いた移植治療の研究を行なっている。既にマウスES細胞から骨格筋細胞を誘導し、これを筋損傷モデルマウスに移植し、運動機能が改善することを報告した。マウスES細胞を用いた検討ではmdxマウスの筋細胞はES細胞由来筋細胞と融合して、正常にジストロフィン蛋白を発現する筋線維を形成した。そこで、ヒトでの実用化を目指して、よりヒトに近い霊長類ES細胞を用いて、筋細胞を分化誘導して、筋ジストロフィー症の実験動物での治療研究を行った。本年度の研究からcytomegalovirus promoterで誘導される蛋白発現ベクターを用いてサルES細胞をトランスフェクトした場合には、筋細胞への分化誘導されるが、安定した形質変換が行われず、筋細胞の増殖が不安定であるため、培養を継続すると筋細胞が減少・死滅することを見出した。その原因はおそらくIGFの細胞増殖効果が不十分であるためと考えられた。そこで、より強いIGFII産生をもたらすため、CAG promoterの下流にIGFII遺伝子をサブクローニングしたpCAG-hIGFIIを作成した。その後は作成したこのベクターを用いて検討を行っているが、期間が短いため筋細胞株は樹立は未だできていないが今後は有望である。
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