緑内障視神経症の進行には、篩状板近傍での視神経の軸索障害が強く関わっていることが指摘されてきたが、生物の眼の中で、その軸索障害を直接観察した報告はない。我々は、まず、in vitroの実験として、網膜神経節細胞を3週間以上培養し成熟した軸索と樹状突起を有する網膜神経節細胞へ分化することに成功した。その網膜神経節細胞の軸索内タンパク(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)をGFPで標識し、その軸索輸送をライブで観察することができた。 さらに、抗Tau-1抗体及び抗MAP2抗体をもちいて、網膜神経節細胞の軸索と樹状突起を染め分け、軸索内を移動するBDNFの移動速度と分子数を定量的に評価した。その定量的なBDNFの軸索輸送の評価によって、順行性に移動するBDNFと逆行性に移動するBDNFが存在することがあきらかとなった。この結果は、Quigleyらが報告し受け入れられてきた逆行性のBDNF軸索輸送で細胞体を栄養している概念とは異なる結果であった。生体内で軸索輸送される分子を観察するために、BDNFよりさらに大きな粒子を観察する実験に取り組んだ。ミトコンドリアは、軸索内で移動する細胞内小器官である。ミトコンドリアを蛍光標識したマウスを用いて、網膜組織でのミトコンドリアの観察をおこない、蛍光顕微鏡でミトコンドリアの追跡が可能である結果を得た。今後、蛍光標識したミトコンドリアの軸索輸送を生体内でライブ観察をおこなう研究に取り組んでいく予定である。
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