本年度は、網膜神経節細胞の軸索流を解析する研究をおこなった。網膜神経節細胞の長期培養をおこない、GFPを結合させた脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor ; BDNF)の遺伝子をリポフェクタミンを用いて導入し、その軸索内での動きを観察した。従来の導入法では全体の1%以下の細胞においてしか、軸索流の観察可能な細胞がえられなかったが、生後3日目のラットを用いることで、10倍以上の効率でBDNF導入かつ軸索流観察可能な網膜神経節細胞を得ることが出来た。BDNFの軸索移動を定量評価したところ、軸索内では順行性の流れと逆行性の流れのいずれもみられ、その速度は、樹状突起に発現するBDNFに比べて速いことがあきらかになった。生体内の網膜で軸索流を観察するには、より大きな細胞内の粒子を観察する必要がある。そのために、細胞内小器官であるミトコンドリアとリソソームの蛍光標識を試み、網膜組織で蛍光標識されたミトコンドリアとリソソームの動きを捉えることに成功し、網膜組織内での軸索流の観察が可能になった。また、ライブでの観察のために、ミトコンドリアをCFPで標識したトランスジェニックマウスを繁殖させ、そのマウスの眼底を蛍光顕微鏡で観察をおこなうことができた。以上の研究は、生きた動物での網膜神経節細胞の軸索流の観察が可能であることを意味し、未だ仮説である緑内障視神経症の病態を確認することが可能となり、緑内障進行を網膜神経節細胞の細胞死よりも早い段階で診断することが可能になる診断システムの開発につながる結果がえられたと考えている。
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