末梢性の顔面神経麻痺に対する再建方法として、従来の単一のmeural motor sourceを用いた再建ではなく、複数のneural motor sourceを使用することで病的共同運動を抑制し、よりきめ細かな顔面表情筋の再建を行なうことができると考えられている。我々は新たなneural motor sourceとして三叉神経の運動枝に注目し、これが末梢性顔面神経麻痺の治療における有効性について研究を行なっている。 当該年度はラットモデルを用いて実験を行なった。 【方法】ウィスターラット(250-300g、雌)を10匹使用し、これを正常群、三叉神経再建群、コントロール群に分けて実験を行った。三叉神経群は顔面神経本幹を茎乳突孔の出口で切断し、その末梢端を三叉神経咬筋枝と11-0ナイロンで端々吻合を行った。コントロール群は顔面神経本幹を切断し、再建を行わないものとした。三叉神経再建群は術後経過2週、4週、8週、16週の4グループに分けて解析を行った。解析は誘発筋電図、電顕による再生軸索の評価および逆行性神経トレーサーによる神経核のカウントにより行った。 【結果】コントロール群においては誘発筋電図による筋収縮を認めず、電顕で再生軸索は変性しており軸索数も少数であった。神経核のカウントでは、トレーサーで染まった神経核がわずかに認められた。三叉神経再建群においては術後8週で筋収縮を認め、電顕での再生軸索は変性しているものの軸索数は有意に多く認められた。神経核のカウントでも術後8週で逆行性に染まった神経核が多数認められた。 【考察】顔面神経麻痺の再建においては、motor sourceとして多数の運動神経を導入することが病的共同運動を予防する鍵であると考えられている。今回、三叉神経咬筋枝がひとつのオプションとして利用可能であることを実験的に証明した。
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