研究概要 |
本研究は,βブロッカー(エスモロール)持続投与が腹膜炎惹起敗血症ラットにおける敗血症病態の進行を修飾し,さらには予後を改善するか否かを検討する目的で行った.前年度,申請者らはβブロッカーの持続投与により腹膜炎惹起敗血症ラットの生存時間が有意に延長することを見出した.本年度はその機序解明を目的として,同モデルで腹水及び動脈血中の炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-1β),HMGB-1測定を行い,さらに敗血症の進行に重要な役割を担うbacterial translocationに焦点を当て,PCR法を用いて腸管膜リンパ節,肝臓,脾臓及び動脈血中への細菌移行の発生頻度を検討した.実験動物を無作為に対照群(生理食塩水)及びエスモロール群(塩酸エスモロー:15mg/kg/hr)に割り付け,上記項目について評価した.その結果,腹水中のIL-1β,HMGB-1は2群間で差がなかったものの,エスモロール群では対照群と比較して,腹水中のTNF-α濃度は有意に低値であった(P<0.05),一方,血液中の炎症性サイトカイン,HMGB-1は両群共に検出限界値以下であった.Bacterial translocationの陽性率は,両群の全ての臓器において有意を認めなかったが,腸管膜リンパ節ではエスモロール群で陽性率が低い傾向にあった(66%versus87%).以上より,βブロッカーの持続投与は,TNF-αを中心とした炎症反応を少なくとも局所レベルで抑えることで敗血症の進行を遅延した可能性が高く,同時に腸管壁防御機構の破綻を抑え,腸間膜リンパ節へのbacterial translocationの発生を軽減する可能性が示唆された.
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