研究概要 |
頸部郭清や組織再建を伴う長時間の悪性腫瘍手術では、手術後に認知機能の低下(postoperative cognitive dysfunction; POCD)が観察されることがあり、術後のQOLを損なう要因として問題となっている,POCDは、手術部位で産生されたサイトカインが血液脳関門を通過し、中枢神経系に侵入することによって発症すると考えられている.グリア細胞は中枢神経系の支持組織であるが、加齢にともなって増加し、種々のサイトカインの主要な標的細胞でもある. スタチンは本来、コレステロールの生合成経路を阻害することにより高コレステロール血症を改善する薬剤であるが、近年コレステロール低下作用だけからは説明できない多彩な機序(pleiotropic effect)を介して抗炎症作用をもたらすことが明らかになっている.プレグネノロンの硫化エステルである硫酸プレグネノロンは学習・記憶障害を改善するニューロステロイドであり、ステロイド代謝酵素スルフォトランスフェラーゼ(SULT2Bla)により産生される. C6グリア細胞株にLPS(1μg/ml)およびTNFα(240ng/ml)の存在下でサイトカイン反応を誘発し誘導型NO合成酵素(iNOS)を発現させたところ、SULT2Bla遺伝子の発現は有意に抑制された.次にC6グリア細胞株にsimvastatin(1μM,3μM)を単独で投与したところ、24時間後のSULT2Bla発現は有意に抑制された.さらにsimvastatinの存在下でiNOSを発現させたところ、SULT2Bla遺伝子発現の抑制は回復しなかった. 以上の結果より、simvastatinはサイトカイン反応によるSULT2Bla発現の抑制に対して抗炎症作用を示さず、単独でSULT2Bla発現を抑制することが示唆された.
|