研究概要 |
近年「歯の再生」に向けた細胞操作技術の開発は大いに進展したが、今なお実用化のために解決しなければならない問題がある。その一つは、いかに再生歯の大きさとかたちを失われた天然歯と同等にするかという、形態的コントロールの問題である。インスリン受容体の変異が原因の疾患である妖精症の患者にIGF-Iの長期投与を行った結果、歯の歯冠幅径は著しく大きくなったことが報告された。また、IGF-Iはマウスを用いた研究において、歯胚の体積を増加させることが報告されている。以上のことから、我々はIGF-I級が歯の大きさを制御する上で重要な働きを担っていると推論し、人工的に作製した歯胚から発生した再生歯の大きさを、IGF-Iにより制御できるか否か解析を進めてきた。 我々は、研究分担者である辻らの報告(Nakao, et.al., Nat Methods, 2007)に基づき、胎生14.5日齢の帽状期マウス切歯歯胚を取り出し、歯原性上皮と歯原性間葉に分離して単一化した。得られた上皮および間葉細胞を、コラーゲンゲル内で高密度に区画化して再構築させ、3次元的に培養することによりマウス人工歯胚を作製した。その後、人工歯胚の器官培養を行い、再生歯の発生を促した。現在、発生した再生歯をパラフィン包埋した後、組織切片を作製し、in situハイブリダイゼーション法および免疫染色により、IGF-IおよびIGF-I受容体のmRNAとタンパク質の発現パターンを解析している。今後、マウス歯胚の器官培養系における機能亢進と機能抑制実験を行うことにより、IGF-Iが健常な歯の発生において大きさの制御に関わることを明らかにしていく。得られた成果は、国際誌にて発表する予定である。
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