歯科やスポーツ分野において、咬合と全身の運動機能との関係が注目を集めており、随意的な咬みしめに伴って全身の運動機能が促進されるということが数多く報告されている。これまでの研究で咬みしめによる運動機能の向上は下位中枢である脊髄の関与が多くの研究で言われているが、上位中枢の関与は不明であった。近年、大脳皮質一次運動野の磁気刺激により骨格筋から運動誘発電位を記録した研究で、咬みしめにより電位の振幅が増大したことから、上肢筋筋力の咬みしめによる促通には脳すなわち上位中枢が関与していると考えられるようになってきた。しかしながら、咬みしめが脳機能にいかなる影響を与えるか、咬合と全身機能の関連において脳はいかなる役割を果たしているかに関しては未だ解明されていない。そこで本研究で我々は、咬みしめが上肢筋筋力に与える影響をfMRIを利用し、脳賦活パタンを指標として検討した。被験者は東京医科歯科大学歯学部在学中の学生及び、当分野医局員のうち定期的な筋力トレーニングを行っておらず、上前腕部障害の既往、歯痛、口腔顔面領域の筋肉痛および顎関節痛のない個性正常咬合を有する健康成人10名とした。MRI室外にて、被験者に利き手で握力計を把持させ、咬頭嵌合位で咬みしめながらの瞬発的把持動作と下顎安静位での瞬発的把持動作を2秒間行わせ、握力を測定した。脳機能画像の採得に際して、被験者は瞬発的把持動作、および咬頭嵌合位での咬みしめ動作を行った、把持動作のみを行った場合に比較し、咬みしめ動作と同時に把持動作を行った場合の方が、感覚運動野のうち手に関する領域および補足運動野の活動領域および活動強度が有意に増加した。以上のことから、上肢筋筋力の咬みしめによる促通には上位中枢が関与しており、そのうち感覚運動野および補足運動野が咬みしめによる運動能力の向上に関連があることが示唆された。
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