研究概要 |
看護技術教育において,「コミュニケーション技術」は重要な項目の1つである。本研究の目的は,非言語的なコミュニケーションの1つである表情が生体に及ぼす影響について神経生理学的な側面から解明することである。実態調査として,患者の入院期間の違いと表情から得られる情報との関連について看護師にインタビューを行った。その結果,入院期間の長い患者の方が表情から得られる情報は多いが,その情報を得る際には言語的なコミュニケーションも関係していることが示された。実験では,表情画像6枚(「親しい人物」と「見知らぬ人物」の笑顔,無表情,視線をそらした画像)と背景画像1枚をランダムに2分ずつ呈示した時の生体に対する反応を生理学的指標として自律神経活動(心拍数,R-R間隔),心理学的指標として主観的間隔尺度(VAS法)とSD法を用いて測定した。「親しい人の笑顔」では,HF(副交感神経活動)は上昇せず,LF/HF(交感神経活動)が上昇した。このことを顔認識モデルから考えると,貯蔵した情報量の多い「親しい人の笑顔」で既知感が高まり,それを基にして顔認識過程が作用したためにLF/HFが上昇したと推測される。また,「視線をそらした」画像では対象者との親密度によって差があるが,親しい人の3種類の画像では,経時的にLF/HFが上昇した。これは,視線をそらされることで不快感を生じ,HFを抑制することで相対的にLF/HFの亢進がみられたと考えられる。 以前の研究結果では,「親しい人の笑顔」の画像刺激でHFが亢進したことから,今後,刺激条件,刺激画像(親密度の違い)などを詳細に検討する必要がある。
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