本研究課題では、神経情報を受容するシナプス近傍における樹状突起が、神経情報の統合をいかなるシグナリングのクロストークによって実践しているのか、さらに、そのような「場」を提供する樹状突起の形態が、神経情報によっていかに修飾・維持されているかについて、徹底的に解明していこうとするものである。本年度は、5年計画の2年目で次のような成果を得た。 シナプス活動に応答して転写活性化が引き起こされるときに、どのような樹状突起内シグナリングが必要か、さらに核内でどのような調節領域が関与しているかをArc遺伝子発現について引き続き詳細な解析を進めた。シナプス活動応答性エレメントSAREを活性化するシグナルの正体についてさらなる解析を進めるとともに、複数の転写因子とその複合体が、活動依存性前初期遺伝子の発現誘導にどのように寄与するのかを明らかにした。このような核内メカニズムにより、生理的な文脈における強い可塑的刺激が核内に効率よく伝わることを解明した。このような樹状突起シグナリングの多層性を解析する目的で、新たな多重蛍光シグナル計測解析技術を開発した。これを海馬錐体細胞初代培養系に適用し、可塑的シグナルの多重計測に成功した。 脳成熟過程における樹状突起形成におけるCaMKIgammaの作用を引き続き探索し、その脂質ラフト局在に加え、キナーゼ領域の基質特異性にも、極めて重要な意義あることを明らかにした。他のCaMK1ファミリーメンバーの作用も探索したが、いずれも樹状突起形成・伸展に対する効果は有意ではなかった。
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