本研究では、神経発生、神経機能調節における小胞輸送システムの関与およびその分子機構を明らかにすることを目的としている。特に神経細胞の分化、移動、構築、機能制御に焦点を当て、膜シャペロンタンパク質FKBP38と膜輸送制御タンパク質protrudinの複合体、即ち"FKBP38-protrudin複合体"による制御機構を解明している。そして、それらの機構のヒトの二分脊椎などの神経形成不全や遺伝性痙性対麻痺などの神経疾患の病因への関与を解明し、さらに治療への応用を目指している。 今年度は、まず、protrudinとprotrudinのFYVEドメインの結合脂質スルファチド、およびRab11の神経細胞樹状突起スパインでの機能連関を調べた。その結果、(1)Long-term potentiation (LTP)シグナル依存的に働くPKAおよびPKCにより、protrudinとRab11の結合が増強されることがわかった。(2)さらにPKAによりRab11-GDPとの結合が増強し、逆にPKCによりRab11-GTPとの結合が増強することがわかった。(3)PKAおよびPKCによるprotrudinのリン酸化部位を質量分析により解析したところ、各々異なる部位がリン酸化されることがわかり、いずれもFYVEドメイン中であるという結果を得た。(4)また、記憶・学習を反映すると考えられる海馬CA1領域のLTPについて電気生理学的実験を行ったところ、protrudinノックアウトマウスでLTPの減弱が有意に認められた。よって、protrudinは記憶・学習などの高次脳機能に重要な働きをしていることが明らかになった。一方、FKBP38については、(5)ミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)におけるパーキンソン病の原因遺伝子parkinやPINK1との機能的関連が示唆されるデータを得た。
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