研究課題
オミックス脳解剖の新技術として、チタンベースのナノ微粒子を用いた質量顕微鏡法を確立することで低分子代謝物の空間分布の可視化に成功し、成果を原著論文(Shrivasら)ならびに総説論文(Hameedら)として発表した。また、TLCブロットと質量顕微鏡を組み合わせ、ヒト脳を構成するガングリオシド分子種の分離・同定法を確立し原著論文を発表した(Valdes-Gonzalezら)。また中枢神経系におけるニューロペプチド分布の可視化技術を確立し、原著論文として報告した(Chanselaら)。これらの手法を総括した英文総説も発表した(Goto-Inoueら)。新手法・新技術の確立と並行し、ヒト脳の質量顕微鏡解析を行い主に二つの重要な知見を得た。ヒト正常脳の質量顕微鏡解析により、大脳灰白質と白質におけるヒドロキシル化脂質と非ヒドロキシル化脂質の分布に顕著な差違を見出し、原著論文として報告した(Yukiら)。また統合失調症患者の死後脳を質量顕微鏡で解析し、前頭前皮質において特定のリン脂質分子種の分布が異常になっていることを見出し、原著論文を発表した(Matsumotoら)。これらヒト死後脳の質量顕微鏡オミックス解析以外に、培養神経細胞を用いた研究により、神経軸索の基部と遠位部において脂質組成が大きく異なること、その差違を生み出すのにアクチンのダナイミクスが必要であることを見出し、原著論文として報告した(Yangら)。また疾患モデル動物の質量顕微鏡解析も行った。その一例として術後脳浮腫モデルラットを用いた解析で、潅流溶液による脳浮腫の抑制効果を評価し、原著論文を公表した(Koizumiら)。
1: 当初の計画以上に進展している
過去3年と本年度で質量顕微鏡を用いた各種「脳オミックス」の手法を確立し、当初計画していた正常ヒト脳の質量顕微鏡オミックス解析も無事完了した。これに伴い、最終年度の目標にしていた疾患脳の質量顕微鏡オミックス解析に着手でき、統合失調症の死後脳で特徴的な脂質分布異常を見出すなどの成果が出ている。
研究が当初計画以上に進展していることもあり、最終年度はさらに疾患脳の解析例を追加したい。アルツハイマー病、パーキンソン病、MSAなどがその対象となる。また、疾患モデル動物(たとえばマウス、あるいはよりヒトに近いマーモセット)を使用することで、ヒト死後脳では解析が困難な疾患進行時のオミックスを解析し、時間軸の追加された多次元オミックスに挑戦したい。また、質量顕微鏡技術と近年確立された次世代シケーンシング技術を融合させ、これまでとは異なる切り口でオミックス解析の多次元化を図っていきたい。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (12件) 備考 (1件)
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