トポロジカルな特徴を有するハニカム構造フィルム上で種々の細胞を培養したところ、細胞の接着形態、増殖、分化、機能などが平膜と異なること、さらにそれらの効果が孔径に大きく依存することを見いだしており、多くの癌細胞において増殖が抑制されることを明らかにした。ポリカプロラクトン(PCL)からなる孔径数ミクロンのハニカムフィルムを用い、各種癌細胞を培養した。ハニカムフィルム上で50%近い増殖抑制を受けるII型肺胞上皮癌細胞は、培養48時間後にトリプシン処理をしてもコントロール培地である平膜やポリスチレンディッシュからは完全に剥離するのに対し、長時間の酵素処理をしても50%程度の剥離率であった。増殖抑制効果の少ない膵癌細胞や大腸癌細胞にくらべ、増殖抑制を受ける肺胞上皮癌細胞や胆嚢癌細胞はトリプシン処理に耐性がありハニカムフィルムに強く接着していることがわかった。生きた状態で細胞を蛍光染色し、培養直後から24時間の個々の細胞の運動軌跡を計測した。コントロールである平膜やポリスチレンディッシュ上に比べ、ハニカムフィルム上では運動性が際だって抑制されていることがわかった。ハニカムフィルム上に増殖抑制が高い癌細胞を播種し、24時間培養した後の形態を電子顕微鏡で観察したところ、ハニカムフィルム上面に接着した細胞のほかに、ハニカムフィルム内部の3次元空間に侵入した細胞を確認することができた。以上の結果より、ハニカムフィルム内部への細胞の侵入は、基材に対する強固な接着や細胞の運動抑制をもたらしており、増殖を抑制する一因になっている可能性が示された。
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