研究概要 |
腕の運動学習用の脳内過程が、反対側の腕運動に応じて切り替わることで柔軟な両腕運動が達成される、という仮説の検証、脳内過程の脳内表象、状態更新規則の解明を目的として以下の研究を実施した。 1.エラークランプの実装:従来の運動学習効果を評価する方法は系の状態を乱してしまい、実験に要する試行数が莫大になるという欠点があった。この欠点を解消するため、手の軌道を直線上に拘束し、この拘束面に対して手が発揮した力を測定する「エラークランプ法」を我々の実験系に実装した。この方法により、最大で2試行に1回キャッチ試行を挟むことが可能になることを確認した。 2.運動学習における反対側の腕運動の影響:エラークランプ方法を用いて、右腕運動の方向に応じて、左腕のメモリがどのように切り替わるかを網羅的(8方向)に調べた結果、右腕の運動方向が学習に使った方向から離れるに従って漸減するパターンが観察された。 3,片腕運動と両腕運動の類似度:片腕リーチング運動で獲得した運動学習効果は、反対側の腕運動を加えたときにどの程度転移するか、エラークランプ法を用いて調べた。その結果、学習効果は右腕の運動方向(8方向)によらず一様に(60-70%)転移した。運動学習の観点からは、両腕を同・逆方向に動かすなどの両腕運動が特に片腕運動に似ているわけではなく、全て同様に異なっていることが示された。 4.脳内表象の違い:昨年度開発した装置を用いて、片手・両手手首運動における運動学習中の脳機能イメージング実験を実施した。それぞれの運動学習に特異的な脳賦活部位を同定できた。 5.片麻痺者の運動機能:片麻痺者3名のうち1名で、患側のリーチング運動が健側の運動を付け加えることで改善した。ただし、現状のマニピュランダムは剛性が低く、ハンドルも握りにくいため、患者のリーチング運動の測定には向いていないという欠陥も明らかになった。
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