研究課題/領域番号 |
20675001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大越 慎一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (10280801)
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キーワード | 相転移 / スピン化学 / 磁性 / 誘電性 / 光物性 / ナノ微粒子 / 強磁性体 / 非線形光学 |
研究概要 |
Fe_<0.52>Rh_<0.48>薄膜において、表面磁化誘起第二高調波発生(MSHG)の光スイッチングに成功した。また、磁化方向と誘起される非線形感受率テンソルの関係を考察し、その表面MSHGの光スイッチングメカニズムを明らかにした。以下に具体的内容を示す。 高周波スパッタ法によりMgO基板上に作製したFe_<0.52>Rh_<0.48>薄膜に関して、磁場下における表面SHGを測定した。293Kでは反強磁性相であり、±1.1°のSH回転角を示した。これは副格子磁化の傾きによるものであると考えられる。スピンを持たない表面からのSHGであるp偏光が大部分を占めていると考えられ、これら反強磁性オーダリングの寄与は無視できる程度に小さい。一方、強磁性状態である463Kでは、±26.0°のSH回転角を示した。薄膜表面は磁気点群2mmで表される対称性を持っていると考えられる。 293Kの反強磁性相に775mmの励起光を照射すると、SH回転角が1°から25°へ変化した。この回転角は強磁性状態である463Kのときの回転角と同程度であった。また、光照射をオフにすると、再びSH回転角は1°に戻った。 Fe_<0.52>Rh_<0.48>薄膜表面では反転対称性の破れによりC_<∞v>で表わされる対称性(点群∞mm)を持ち、面外に電気分極が存在し、SHG活性である。また、Fe_<0.52>Rh_<0.48>は、400K付近で磁気相転移を示し、293Kでは反強磁性相であり磁化は持たないが、463Kでは強磁性相となり磁化を持つようになるため、非線形感受率テンソルの磁性項が発現したと考えられる。したがって、上述の光照射による大きなSH回転角の変化は、Fe_<0.52>Rh_<0.48>が瞬間的に加熱され、反強磁性相から強磁性相へ転移することに起因していると結論付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気分極と磁気分極が共存する焦電性-強磁性錯体[{Mn(pyrazine)(H_2O)_2}Mn(H_2O)_2}{Nb(CN)_8}]-4H_2Oの磁化誘起非線形光学現象を観測することができた。また、Fe_<0.52>Rh_<0.48>薄膜においては、表面磁化誘起非線形光学現象の光スイッチングにも成功しており、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次世代光スピン科学現象の創成という観点から、キラル構造を有する磁性錯体を合成し、それらの非線形光学現象の観測を行う。また、ハロゲン結合を活かした磁性金属錯体を合成し、高次の光スピン現象の検討を行う予定である。
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