研究概要 |
非線形磁気光学効果が期待される光学活性な希土類金属磁性錯体{[Eu^<III>(RR-Pr^i-Pybox)(dmf)_4]_3[W^v(CN)_8]_3}_n・dmf・8H_2O(EuW-RR)および{[Eu^<III>(SS-Pr^I-Pybox)(dmf)_4]_3[W^v(CN)_8]_3}_n・dmf・8H_2O(EuW-SS)(Pr^i-Pybox=2,2'-(2,6-pyridinediyl)bis(4-isopropyl-2-oxazoline), dmf=N,N^1-dimethylformamide)を合成することに成功し、その磁気特性および発光特性を明らかにした。 EuW-RRおよびEuW-SSは、Eu(NO_3)_3と有機配位子の混合溶液にTBA_3[W(CN)_8]溶液(TBA=Tetrabutyl ammonium)をゆりくり拡散させることにより、それぞ横色針状結晶として得た。単結晶構造解析より、Eu^<III>とW^vがシアノ基によって交互に架橋された1次元らせん構造を有していることが明らかになった。EuW-RRとEuW-SSは、その有機配位子のキラリティー反映し、鏡像関係にあった。蛍光測定の結果から、室温では、無放射過程とEu^<3+>から配位子への逆エネルギー移動(^5D_0→T_1)が起こるため、有機配位子由来の青色の発光が主となることがわかった。一方、低温下(液体窒素温度,77K)では、配位子からEu^<3+>へのエネルギー移動が効率よく起こるためEu^<3+>由来の赤色の発光が主に観測されたと考えられる。磁気測定の結果から、EuW-RRおよびEuW-SSは共に常磁性であることがわかった。Eulllの基底状態は7Foであるため非磁性であるが、室温において比較的大きな磁化が観測されることから、スピン-軌道相互作用は小さく、励起状態(^7F_J,J=1,2,3,4,5,6)にも熱分布していると考えられる。スピン。軌道相互作用を考慮して磁化率の解析を行った結果、温度の低下に伴い、Eu^<III>の励起状態の占有率が減少し、スピンを持たない基底状態が優先的になることが結論づけられた。これらの化合物は、非線形光学効果および磁気的な非線形光学効果を観測するのに適した系であると期待される。
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