研究概要 |
本研究は新たな均一系鉄触媒による一群の精密炭素-炭素結合生成反応を開発することで,今後の社会が直面してゆく資源・環境問題の解決技術に資する次世代型の精密有機合成化学の開拓に挑むものである.本年度は.マグネシウム反応剤を用いたクロスカップリング反応には過剰量のTMEDAの添加が必要であり,これが工業化などを念頭においた実践的鉄触媒の開発に主に取り組んだ.ハロアルカンを基質に用いたクロスカップリング反応は開殻系の中間体経由で反応が進行していることから鉄中間体としてハイスピン状態を優先して与える配位子のスクリーニングを行った.この結果,1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン(DPPBz)が得意な反応性を示すことが最近見出された.高スピン錯体として知られているFeC12(dppbz)2を触媒前駆体とすることで第一級臭化アルキルとフッ素置換芳香属マグネシウム反応剤とのクロスカップリング反応が定量的に進むことがわかり,現在上市されているネガティブ型のネマティック液晶分子の工業生産への応用を目指したが,現行のプロセスの置換には到らなかった.一方,触媒量の不飽和型のNHC配位子,IPrの存在下,従来のカップリング反応では活性に乏しく基質としての利用が困難だった塩化アルキル類と芳香族Grignard反応剤のクロスカップリング反応が進行することを確認した.これはスピン状態の制御によってラジカル性を示す中間体を経なくなったためと考えられるが,この詳細を並列計算機を導入して検討を進める.飽和型のNHC配位子(SIPr)とハロゲン化物イオンで最も大きな配位子場を与えるフッ化物イオンを反応系に添加すると,これまで鉄触媒では不可能であった高選択的非対称ビアリールカップリング反応が進行することを見出し,現在論文投稿準備中である.
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