低温での水素化微結晶Si(μc-Si:H)薄膜の形成に適した多孔質カーボン電極を開発した。本電極は、ガスの局所的吸引機構および冷却機構を備え、大気圧プラズマによる成膜時に電極エッジ部で発生するダストの除去、および、電極の過度な温度上昇の抑止が可能である。 開発した多孔質カーボン電極を現有の大気圧プラズマCVD装置に組み込み、μc-Si:H薄膜の高速形成と成膜温度の低温化に関する研究を行った。まず、基板温度220°Cにおける検討の結果、目的とする成膜速度(5nm/S以上)で、プラズマ発生領域内において膜厚がほぼ均一で、しかも結晶性の良好なμc-Si:H薄膜形成を達成した。特筆すべきは、H2を供給しなくても結晶化度70%程度のμc-Si:H薄膜が得られたことである。このことから、開発した多孔質カーボン電極は、プラズマ中でのガス分解や基板表面での膜形成反応を著しく促進でき、μc-Si:Hの成膜温度の低温化に適しているといえる。次に、実際に成膜温度を90°Cまで低温化した場合の膜構造の変化を検討した。その結果、基板温度を下げても、原料SiH4を十分に分解・活性化できるだけの電力密度を供給すれば、結晶化度を維持できることが確認できた。 一方・基板温度220°Cで形成したμc-Si:H薄膜をチャネル層としたTFTをSiウエハ上に試作したところ、TFTとして動作することが確認できた。ただし、TFT特性から求めたμc-Si:H薄膜の電子移動度は現時点では十分ではなかった。この原因は、開発した多孔質カーボン電極の効果によって膜の結晶化度が高くなりすぎ、欠陥密度が大きかったためであり、今後の成膜条件の最適化により十分な改善が可能である。
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