研究概要 |
前年度に引き続き、一般的な減圧プラズマ技術と同等の電気特性(電気伝導度、欠陥密度)を有するμc-Si薄膜の、低温(90~220℃)・高速(>5nm/s)形成条件の検討を行った。供給する原料(SiH_4ガス)を十分に分解・活性化できるだけの電力をプラズマに投入すれば,基板界面から結晶化した(非晶質の初期層が無い)μc-Si薄膜が安定して得られることが分かった。これは,大気圧VHFプラズマから化学的なエネルギーだけでなく,物理的(熱的)なエネルギーが膜成長表面に能率的に供給された結果といえる。しかし,熱伝導度の低いプラスチック材料を基板として用いる場合には,基板ステージの温度を十分低温に保ったとしても,基板表面の温度は高温になり得るため,プラズマからの流入熱量の見積もりが重要である。そこで,汎用熱流体解析ソフトPHOENICSを用い,実際の成膜条件でのプラズマの発熱量をシミュレーションした。その結果,投入電力の約半分が熱として放射されていることが判明し,成膜時に設定している基板温度に対し,基板表面の温度は約100℃程度高くなっていることが分かった。この知見を元に成膜条件を選択した結果,厚さ0.125mmのPENフィルム上にμc-Si膜を2.5nm/sの成膜速度で形することに成功した。成膜パラメータを最適化すれば,目標とする成膜速度(>5nm/s)は十分達成可能と考えられる。 SiN_xおよびSiO_2の低温・高速成膜に関しても検討を進めた結果,SiN_xに関しては,緻密で経時安定性に優れた膜を常温(基板加熱無し)で,しかも100nm/s以上の非常に速い成膜速度で形成することに成功した。SiO_2に関しては,成膜時に混合するH_2の濃度を濃くすることによって膜の緻密化が観察されたが,TFTのゲート絶縁膜として使用できる膜特性を得るには,さらなる検討が必要である。 一方,μc-Siのドーピングにも対応したマルチチャンバー式大気圧プラズマ薄膜形成装置を新規に設計・製作した。また,昨年度に開発した低温成膜用電極システムおよび水冷対応真空チャック式基板温度制御ステージを設計・製作し,本装置にも組み込んだ。これにより,22年度以降の本格的なTFT試作の準備が整った。
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