Igf2/H19遺伝子座におけるゲノム刷り込み制御において、父親から受け継いだときにのみメチル化される遺伝子座内のICR (Imprinting Control Region)が中心的役割を演ずるが、この片親性メチル化の確立メカニズムは未解明である。申請者らは、Igf2/H191CRをβグロビンYAC遺伝子座に移植し、遺伝子導入マゥス(TgM)を作製することによりその再構築を試みた。この結果、受精後に刷り込みメチル化を指令するゲノム情報(cisDNA配列であることを想定)が存在することが示唆された。この情報の本体を探索するための最初の毅階として以下の実験を行った。(1)野性型ICRをβグロビンYAC内に持つTgMについて、発生段階を遡ってICRのメチル化解析を行った。この結果、受精後メチル化刷り込みは胚盤胞期以前に確立することが明らかとなった。次に、転写因子CTCF結合配列変異型ICRを用いてβグロビンYACTgMを作製し、導入ICR領域のメチル化状態を調べた。その結果、体細胞において、両親由来のICRともに高メチル化状態にあり、メチル化刷り込みが消失していた。さらに、この変異型ICRの、胚盤胞期におけるメチル化刷り込みを解析した結果、両親由来で差が認められた。この結果より、CTCF結合配列は受精後メチル化刷り込みの「維持」に必要だが、「確立」に関わるゲノム情報の本体ではないことが確認された。(2)親の性異存的なDNAメチル化シグナルの本体が2.9kbp DNA領域内に確実に存在することを証明するために、2.9kbpのICRDNA断片のみを用いてTgMを作製した。同配列のメチル花解析を行った結果、6系統中5系統で、父親由来の時に高いメチル化が認められた。この結果より、2.9kbpDNA断片内にメチル化刷り込みに関わるドミナントな活性が存在することが明らかとなった。しかしながら、おそらく位置効果のために結果にばらつきを生じたことから、今後はYAC TgMを用いて解析を進めることが結果の解釈を容易にすることも確認できた。
|