体の大きさや形は、遺伝子およびその転写産物の発現と機能、さらには環境要因によって厳密に制御されている。遺伝子のバリエーションの中で生じる歯の大きさや形の変化は、個性に相当するものから、病的な疾患として対応しなければならないものまでさまざまである。したがって、分子レベルおよび環境レベルでの個体や組織の形態制御に関するメカニズムの解明は、一般的な発生学のみならず、近年注目されている再生医学へ応用可能な知見となりうる。 そこで我々は、包括的な遺伝子スクリーニングから、歯の形態形成に関わる分子の同定を行ってきた。これまで、epiprofin欠損マウスの解析により、歯特異的な転写因子が、歯数の制御に関わっていることを明らかにした。またギャップ結合分子Gja1が、エナメル形成に必須の分子であり、ERKなどの一般的なシグナル伝達分子の活性化制御に関わっていることを明らかにした。今年度は、外胚葉異形成症の原因遺伝子であるEDAの下流シグナル分子の欠損マウスの解析から、p50とNIKが歯の横幅の決定に重要であることを、これらの遺伝子欠損マウスの解析から明らかにした。p50あるいはNIKの単独欠損マウスでは、歯になんら表現系を示さないにも関わらず、これら分子の2重欠損マウスにおいては、特に第一臼歯における歯の縦幅に変化は生じないが、横幅がコントロールマウスの約60%程度になることを見いだした。さらに、この過程において、Wnt7bとshhの増殖因子のクロストークが関与していることを発見した。現在、p50およびNIKによるWnt7b発現制御メカニズムを明らかにするとともに、歯の縦幅の制御メカニズムに関する分子スクリーニングを行っている。
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