研究概要 |
近年,物体表面の触感を提示するデバイスが盛んに研究されている.しかし,未だ実用的なレベルで触感を再現している例は見あたらない.本研究では,触感提示の具体的なアプリケーションを考えたとき,最も有用な触感提示対象は人肌であると考え,ユーザーの指先に人肌の感触を再現提示できる触感提示デバイスを実現することをめざしている.このために,人肌触感を,柔らかさ感・粘着感・温度感・粗さテクスチャ感等から構成されると仮定し,各触感の提示技術,ならびに,それらを統合した提示技術を開発している. 本年度は,粗さ感,しっとり感,柔らかさ感に関する研究を重点的に進めた. 粗さ感の研究としては,これまで静電気力を用いる手法を中心に検討を進めてきたが,高湿度環境下での触感提示の不安定性を鑑み,今年度は代替手法として,磁歪振動子を用いた触感提示について検証を行った.結果,振動感覚を指に惹起することが十分可能であることを確認した. しっとり感(濡れ感)の研究では,濡れ感が温度変化と接触面積変化により引き起こされるという心理学の知見に基づいてモデル化を進めてきたが,人が水に触れた際の指先での水の挙動や発生力を理論と実験の両面から検討した結果,接触面積変化は濡れ感知覚にはほとんど寄与していないことを見いだした.これに基づき,温度変化のみによる濡れ感知覚モデルを構築した. 柔らかさ感については,接触面積センサと接触面積提示装置の組み合わせによる柔らかさ感の遠隔提示システムを昨年度構築しているが,より複雑な感触(例えば柔らかい皮膚の下に骨などがある感触など)の表現をめざし,センサと提示装置それぞれの制御自由度を増やすことを試みた.これにより,柔らかさ感の中にある異物感をある程度再現できることを確認したため,今後,自由度をさらに増大させた装置の製作を検討したい.
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