研究概要 |
平成20年度においては, 次の3つの成果を得た : (1)シミュレーションモデルと観測データを融合し, シミュレーションモデルの自動構築を可能とするデータ同化技術について, ペトリネットモデルによって記述されたシミュレーションモデルを線形, 共線形方程式として表し, そのパラメータ推定を事後確率最大化法(Maximum a posteriori)として定式化することで行う方法を開発した(Yoshida et al. (2008)Bioinformatics). また, 複数のネットワーク仮説があった場合に, シミュレーション結果のロバストネスから最適仮説を選択する情報量規準を導出し, 実際のサーカディアンリズムパスウェイに対して適用した. (2)転写因子の結合するシス制御配列モチーフ, ChIP-chip(ChIP-seq)データ, 遺伝子のDNA上の位置情報とマイクロアレイによるトランスクリプトームデータを統合し, 機能的に有意な遺伝子モジュールを抽出するEEM法を提案した(Niida et al. (2009)BMC Bioinformatics). この方法により, 多種多様なゲノム情報を統合し, 遺伝子モジュールとしての単位で原料を理解することが可能となった. 提案したEEM法は乳がんのマイクロアレイデータに適用し, これまで知られていたいくつかの乳がんバイオマーカー, および原因遺伝子の関連を予測した. (3)薬剤応答時系列マイクロアレイデータとタンパク質間相互作用データを融合し, 薬剤が転写レベルで細胞に与える影響の時間変化を推定し, その影響を伝えるシグナル伝達経路を予測する方法をダイナミックベイジアンネットワークと統計的メタアナリシスを用いて開発した. 提案した方法は, ヒト血管内皮細胞における高脂血症薬Fenofibrateの薬剤作用機序を明らかにするための解析に適用し, それまで仮説であった薬剤のオートクライン的2次作用を検証した. その結果, オートクライン的2次作用に関わっていると考えられる統計的に有意なシグナル伝達経路とそのターゲット遺伝子を同定した.
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