背側の嗅覚神経回路を特異的に除去した神経回路の改変マウス(背側除去マウス)を用いて匂い認識能力を解析した。その結果、背側の神経回路は、我々が既に明らかにしていた、匂いに対する先天的な嫌悪反応や恐怖反応に加え、多種多様な社会コミュニケーション反応を先天的に制御していることが明らかになった。また、社会コミュニケーション反応の制御に関与することが知られていた、DHBやSBTなどの匂い分子を合成し、これらの匂い分子が嗅球の背側ドメインの特定の領域を活性化することを解明した。 個々の嗅覚神経回路が制御する特異的な情動や行動をより詳しく解明するために、部分的に嗅覚神経回路を欠損した神経回路の改変マウスを作成した。具体的には、Cre組換え酵素の存在条件下で嗅細胞特異的にジフテリア毒素を発現するノックインマウス(OMP-stop-DTAマウス)に対して、一部の嗅覚神経回路でCre組換え酵素を発現させる複数のノックインマウス(O-MACS-Creマウス(背側ゾーン特異的)、OCAM-Creマウス(腹側ゾーン特異的)、Nrp1-Creマウス(後方特異的)、Nrp2-Creマウス(腹側後方特異的))を交配させるという手法を用いた。これらのノックインマウス作成のためのコンストラクションをすべて終了し、ターゲットベクターの組み換えが正常に起こったES細胞を選別し、キメラマウスの作成の段階までを終了した。平成21年度にこれらのノックインマウスを交配することで、様々な種類の部分的に嗅覚神経回路を欠損したミュータントマウスを作製し、その神経回路形成や匂いに認識能力を、解剖学、生理学、行動学の様々な手法を用いて解明する。
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