ヒトがどのようにして柔軟に判断をし、多様な選択を行うことができるか、その認知機能を理解することは神経科学の重要な課題である。本研究では、感覚情報がどのように判断に貢献するのかがすでに知られている2つの弁別課題(運動方向弁別課題と奥行き弁別課題)をランダムに切り替えるタスクスイッチ課題を用いて、判断の柔軟性の神経メカニズムに迫る。そのため、タスクスイッチ課題を遂行中のサルの大脳皮質MT野から、単一ニューロン活動の記録を行った。サルの答えとニューロン活動との相関(Choice Probability:CP)を算出し、2つの課題に必要な情報がMT野ニューロンからどのように抽出されているかを検討した。どちらの弁別課題を行っても正解が同じになる視覚刺激(Congruent刺激)によく反応するニューロンでは、どちらの弁別を行っていてもCPが大きかった。一方、どちらの弁別課題を行うかによって正解が逆になる視覚刺激(Incongruent刺激)によく反応するニューロンでは、どちらか片方の弁別を行っているときにのみCPが大きかった。判断を形成する際、証拠となる感覚情報を蓄積(時間積分)し、ある選択肢に合致する証拠が十分に貯まったときに判断が確定するという考え方が一般的である。この説に則ると、判断の切り替えを制御する方法は少なくとも2つある。一つは、不必要な情報が蓄積されないように感覚情報を遮断する方法(Gate説)、もう一つは一度貯めた情報を時間と共に廃棄する方法(Leak説)である。CPの時間経過を解析したところ、試行の後半部分で不必要なニューロン活動とサルの答えとが相関した。数理モデルを用いて検証をした結果、この結果はLeak説を支持することが判明した。
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