研究概要 |
本研究課題は細胞マニュピレーション技術を用いて細胞集団を作製し、正常に機能する人工生体組織の構築を目指している。組織レベルの細胞集団を設計するにあたって、2〜8個の細胞集団を形成することに起因する細胞内シグナル伝達の変化を調べた。実験にはCOS-1細胞、HUVEC、HepG2細胞を用いた。細胞内シグナル伝達は活性化した低分子量Gタンパク質をモニターするプローブによって細胞培養条件下で顕微観察された。EGFやインスリン刺激の前後でも細胞内シグナル伝達の観察を行った。細胞どうしの接合は、カドヘリン染色された細胞集団を共焦点レーザー走査型顕微鏡により三次元的に観察して確認した。上記の細胞に活性化した低分子量Gタンパク質(Ras, Rho, Rac)をモニターするプローブを発現させ、マニピュレーターによってこれらの細胞をそれぞれパターン基材上に2〜8個の細胞集団を形成するように播種した。24h培養後、Ras、Rac、Rhoの活性化を調べた結果、細胞どうしの接合部位でこれら低分子量Gタンパク質の活性化が強く起こっていることが分かった。また、接合部の面積が同じ場合、活性化の強さは接合した細胞の数が多いものの方がより強いことが分かった。EGF刺激に対する応答性に関しては、細胞集団を構成する細胞の数が増えるにつれてRasの活性化に顕著な遅れが現れた。細胞集団の中でも接合している細胞の数が多いもの(中心のもの)が遅れて活性化することが分かった。本研究課題を遂行する上で細胞集団を形成することにより細胞内シグナル伝達に明確な差違を確認できた意義は大きい。特に細胞集団の中でも接合している細胞の数によりシグナル伝達に差違が見られたことは大変興味深い。このことは同種の細胞でも集団内での位置を調整してやることで、機能発現を制御できる可能性を示唆している。今後も細胞内シグナル伝達を一つの指標としながら細胞の機能発現を向上・維持させ、より大きな人工生体組織の作製を目指す。
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