本研究課題は細胞マニュピレーション技術を用いて細胞集団を作製し、正常に機能する人工生体組織の構築を目指している。これまでに得られた知見を元に、細胞集団を自発的に形成するパターン基材を作製すれば、高速かつ省エネルギー的に人工生体組織を作製できると考えた。本年度は細胞播種のみで数種類の細胞の配置を制御できるパターン基材の開発を行った。特定の領域に細胞を集め、分化や増殖、代謝能を調節する手段として細胞サイズ以下の放射状の溝を持つパターンを検討した。それぞれの細胞が好む溝の幅や間隔、角度には差があると予想し、幅(1μm~5μm)の溝が、一定の間隔(1μm~5μm)を空け、一定の角度(1゜~3゜)で放射状に広がったパターンを作製した。このパターン基材上でHepG2細胞やHEK293A細胞、NIH3T3細胞、HeLa細胞、COS-1細胞などの培養を行い、それぞれの細胞が各パターン対してどのような接着・伸展・遊走挙動をとるのかを観察した。その結果、今回用いた細胞のパターン上への接着率が平坦な場所よりも高く、パターン上に接着したほぼ100%の細胞がパターンの溝に沿って遊走することが分かった。また、パターン上に接着した細胞は、平坦な場所よりも高速に遊走するが、パターンの外に出て行くものは少なかった。更に、小さな細胞は大きな細胞に比べて放射状に広がったパターンの中心付近に集まりやすく、逆に大きな細胞はパターンの外側に集まりやすいことが分かった。今後は三次元パターンの形状によって細胞の接着および遊走を制御し、複雑な共培養組織の構築を目指す。
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