研究概要 |
本研究では, 生理状態にて細胞内部の構成要素に加わる引張・圧縮ひずみと, 各要素の力学特性を計測し, 細胞内の構成要素ごとの残留応力・ひずみ分布を明らかにする手法を確立し, 基質に生じた力が細胞内でどのように伝達されて, 細胞の機能変化を引き起こすのか明らかにしていくことを目的としている. 研究初年度は, 細胞内の細胞骨格や核に生じている生理的ひずみを求めるための手法の確立を目指した. まず, 本科研費にて購入したナノ秒レーザシステムおよび高感度デジタルCCDカメラを, 現有する倒立型蛍光顕微鏡に組み込み, アクチンストレスファイバや微小管などの細胞骨格を切断し, 残留応力を解放させたときの変形挙動を計測できる系を構築した. 高開口数対物レンズを使用して照射レーザスポットを500nm程度まで絞ることを達成し, それぞれの細胞骨格を蛍光観察しながら選択的に切断できる条件を確立した. 予備実験にてホルマリン固定した細胞内のアクチンストレスファイバを切断したところ, 部分的に収縮するファイバが観察された. このことから, 固定細胞内のアクチンストレスファイバにも引張の残留応力が生じていることが示唆された. また, 基板上で培養した血管平滑筋細胞を対象として, 細胞内での核のひずみを求めるため, 低イオン強度溶液で細胞を処理し, 細胞膜や細胞質を除去した前後での核の3次元形態変化を, 現有する共焦点レーザ顕微鏡を用いて精密に計測した. 細胞膜や細胞質を除去すると, 核の長さや幅はほとんど変化しないが, 核の高さと体積が約50%増加した. このことから, 生理状態の核には, 比較的大きな圧縮力が基板面に対して垂直方向に生じていることが示唆された.
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