研究概要 |
平成23年度には、下記2点の研究開発を行った。 (1)ヒト前核期胚の透明帯の厚さと弾性率に関する検討 体外受精及び顕微授精19症例20周期44個の前核期胚についてマイクロタクタイルセンサ(MTS)を用いた測定をおこない弾性率を算出した。体外受精及び顕微授精で得られた前核期胚における透明帯の厚さ別ヤング率は、(A群)15μm未満7.49±4.53kPa(n=12)、(B群)15μm以上17.5μm未満9.36±3.91kPa(n=20)、そして(C群)17.5μm以上15.86±7.72kPa(n=12)と透明帯が厚くなるに伴い弾性率が高くなる傾向が認められた。透明帯が厚い前核期胚の弾性率は、透明帯が薄いものに比べ、弾性率が高い傾向が認められた。透明帯が厚い症例は、硬度が高く、ハッチング障害の存在を示唆し、今後アシステッドハッチングの適用か否かを判断する上で有効な指標になりうると思われた。 (2)クライオナノホールガラス化コンテナとPoly-L-Lysine(PLL:Antifreeze protein)を組み合わせ、低毒性、完全無血清の安全性の高いガラス化保存システムの開発 マウス胚盤胞を用いた試験区(VS中の総CPA25%:EG15%+PLL1O%)の生存率、発育率、平均総細胞数、産仔生産率、産仔正常率は、対照区1(VS中の総CPA 32%:EG 7.5%+DMSO 7.5%+Sucrose O.5M(17%))、そして対照区2((VS中の総CPA 47%:EG 15%+DMSO 15%+Sucrose 0.5M(17%),北里Vitri KIT)と同等の成績を得た。ヒト胚盤胞(Day5-6)を用いた予備試験においても100%(n=10)の生存率と発育率が得られ、ガラス化保存によるダメージは認められなかった。クライオナノホールガラス化コンテナとPLLを組み合わせることによりDMSOとSucrose free、完全無血清下で15%EGと10%PLLのみを添加したVSでマウス拡張期-脱出開始胚盤胞のガラス化保存が可能となった。本研究はガラス化時の体積を正確にナノリットルオーダーへの極小化を可能とするクライオナノホールガラス化コンテナとPLLを組み合わせることによりDMSOとSucrose free、完全無血清下で15%EGと10%PLLのみでマウス及びヒト拡張期一脱出開始胚盤胞のガラス化保存の可能性を実証し、低毒性で完全無血清の安全性の高いガラス化保存システム開発により、ARTの安全性と成功率向上に寄与する可能性が示唆された。
|