骨格筋の酸素供給機構とその規定因子については不明な点が多い。我々は、骨格筋内の酸素貯蔵体として知られているミオグロビン(Mb)に注目して、筋収縮時の細胞内貯蔵酸素(Mbに結合した酸素)の動態を検出した。実験の結果、Mbに結合した酸素は筋収縮開始とともに解離し、それに付随して細胞内酸素分圧が急進的に低下することが明らかとなった。こうしたMbの振る舞いは、Mbが単なる酸素貯蔵体としてではなく、骨格筋組織の酸素供給機構の一部として機能していることを示唆する。こうしたMbの現象の背景には、Mbとミトコンドリアとの密接な相互作用が起因すると予想した。そのことを検証するために、ラット摘出骨格筋の各画分におけるタンパク質解析を行った。その結果、本来、細胞質画分に存在するはずのMbがミトコンドリア画分にも存在した。さらに、ミトコンドリア画分に検出されたMb量は、よりミトコンドリアの多い骨格筋に多く検出される傾向にあった。また、運動トレーニングを課した骨格筋、Cast材で固定した骨格筋では、ミトコンドリア画分に存在するMb量が増減する傾向にあった。こうした状況下でのMbからの酸素供給量もやはり増減していることから、in vivoに見られるMbからの酸素供給量は、Mbとミトコンドリアの相互作用によって引き起こされている可能性が示唆される。この相互作用の有無を検証するために、培養細胞を用いてMbの安定過剰発現細胞を構築すべくMb発現ベクターを作成した。今後、これを用いてMbの局在性や相互作用するミトコンドリアタンパク質の同定、呼吸活性の変化について検討を進める予定である。
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