本研究は、汽水域生態系の特徴である塩分の時間的・空間的変化に対してヤマトシジミとホトトギスガイを中心とした生物群集の動態がどのように変化するかを明らかにし、出水や高潮などの現象が生態系へ及ぼす影響を評価する。突発的な短い時間スケールにおける生態系変動と、数年単位の比較的長期の生態系変動の両方を押さえることで、将来に予測される地球規模の気候変動が汽水域生態系に及ぼす影響を示す。 大橋川の上流から下流まで流心部に数地点の定点を設け、スミスマッキンタイヤ型採泥器を用いて毎月、各地点の河床の底生動物の採集を行った。0.5mm目合いのサーバネットを用いて船上で底泥を落とし、ポリエチレン袋に入れて実験室に持ち帰った。実験室で2mm目合いと0.5mm目合いのふるいを使用してふるい分けを行った。0.5mmのふるいの残った試料は、後で分析するため10%中性ホルマリンで固定して保存し、2mmのふるいに残った試料について選別を行った。ヤマトシジミ、ホトトギスガイ、その他の無脊椎動物に分けた後、ヤマトシジミとホトトギスガイについて殻長を計測した。 毎月の調査時によって異なるパターンで大橋川への塩水の進入が見られた。ヤマトシジミは大橋川の上流側と剣先川で現存量が大きく、ホトトギスガイは大橋川の下流側に多く剣先川では少なかった。2009年度は6月と7月に比較的大きな出水があり、7月の出水後に臨時調査を行ったが、ホトトギスガイは消滅していなかった。塩分の変化の傾向やその他の要因との関連を今後精査する必要があると考えられた。
|