本研究は、汽水域生態系の特徴である塩分の時間的・空間的変化に対してヤマトシジミとホトトギスガイを中心とした生物群集の動態がどのように変化するかを明らかにし、出水や高潮などの現象が生態系へ及ぼす影響を評価する。突発的な短い時間スケールにおける生態系変動と、数年単位の比較的長期の生態系変動の両方を押さえることで、将来に予測される地球規模の気候変動が汽水域生態系に及ぼす影響を示す。 2008年度から継続している方法と同様に、大橋川の上流から下流まで数地点(流心部と水深2mの場所)、剣先川および宍道湖に定点を設け、スミスマッキンタイヤ型採泥器を用いて毎月底生生物の採集を行った。ヤマトシジミ、ホトトギスガイ、その他の無脊椎動物に選別した後、ヤマトシジミとホトトギスガイについて殻長を計測した。数年間のデータを得た後に、月ごとの殻長頻度分布の変化から小型個体の加入時期など個体群動態の特性を解析する。 2010年度は、夏季に記録的な猛暑、冬季に記録的な大雪と気象条件が例年と異なったほか、夏季より秋季にかけて宍道湖でアオコが大発生するなど、これまでの調査期間とは環境条件が異なる年であった。2010年10月~2011年1月において宍道湖の表層水の塩分が5~7psu程度あった。ヤマトシジミとホトトギスガイの現存量が採集時において例年より少ない印象を受けた。このような環境要因と二枚貝個体群の現存量との関係については、年単位でデータを整理して統計解析を行う予定である。
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