大都市における水質汚染が世界中で大きな環境問題となっている。こうした問題の改善には、未だに開発が遅れている水質汚染の原因や汚染程度の評価手法の確立が急務となっている。このような背景から、本研究は水質汚染を評価するための新しい手法を開発し、その有用性を実証することを目的とする。本研究では世界の人口が集中するアジア大都市を対象とする。これまでの最先端研究で欠けていた『汚染の起源となる物質の特徴付け』を行い、かつ、新たな手法としてマルチ環境トレーサビリティ法を導入することで問題解決を図る。 当初の計画通り、初年度(平成21年度)はまず比較試料として最も注目できる化学肥料および合成洗剤、またこれに加え工業用硫酸などを収集した。これまで得た科研費と地球研プロジェクト研究を通じて築き上げてきたアジア研究交流ネットワークを効果的に利用した。結果、研究対象の全てのアジア大都市でこの重要な比較試料の収集に成功した。整理された試料はただちに適切な処理を施し、既に各種同位体分析が完了している。 比較試料の収集と同時に、各国の都市流域において水質調査およびサンプリングも精力的に実施した(関西、台北、バンコク、ジャカルタ(ただしジャカルタは昨年度末))。アジア大都市を網羅し、しかも各国比較という観点を有する水質研究は世界でもこれが始めての挑戦といえる。比較試料と水試料の同位体比較から、同位体環境トレーサビリティ法確立への手ごたえを感じている。大変貴重な試料なだけに新たな発見も多く、現段階で解明された結果は多くの論文・学会にて発表した。来年度にはさらに調査を拡大する。更にこれ以上の成果が見込まれるのは間違いないだろう。
|