昨年度までに、ベンゼン分解に関与する微生物として特定されたSyntrophobacterales目類縁細菌Hasda-Aの16SrDNA塩基配列に特異的なPCRプライマーおよびDNAプローブを設計し、定量的PCR法と、Fluorescent in situ Hybridization (FISH)法による定量手法を確立した。今年度は、得られたプローブを用いて、ベンゼン分解の進行とHasda-Aの増殖との関係を追った。また、ベンゼン、およびベンゼンの誘導体であるフェノール、トルエン、安息香酸の安定同位体標識物を用い、ベンゼン分解の経路を推定した。 温度の影響として、25℃から37℃まで3℃ずつ段階的に設定したところ、37℃ではベンゼン分解が停止することが明らかとなった。また、34℃でも時間の経過とともにベンゼン分解速度が低下したことから、ベンゼン分解には30℃前後が最も適しているものとわかった。また、Hasda-A菌数は、ベンゼン分解が停止した37℃ではほかと比べて有意に減少しており、Hasda-A菌数とベンゼン分解との関係が示された。 ベンゼン、及びベンゼン誘導体をベンゼン分解集積培養系に投与したところ、投与量の約9割の炭素がメタン及び二酸化炭素にまで無機化された。このことから、本ベンゼン分解集積系はベンゼン及びベンゼン誘導体をメタンにまで分解することが明確に示された。また、その生成比は、芳香族環の炭素についてほぼ1:1でメタンと二酸化炭素になることが示された。さらに安定同位体標識されたベンゼンを投与した培養系からDNAを抽出し、超遠心分離で分離したのち、安定同位体を標識DNAの画分の解析を行った。その結果、Hasda-A近縁と思われる塩基配列以外のDNAも存在していることが明らかとなり、複数種の微生物のベンゼン分解への関与が示唆された。
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