微傾斜表面に金属原子を極微量蒸着し、その蒸着量を制御することによって、金属原子のナノワイヤのサイズや形状を精度良くコントロールできる。本研究では、Au(788)微傾斜表面上にMnの1次元単原子鎖あるいは数原子列分の幅を有するナノワイヤを構築し、その磁気構造を放射光を利用したX線吸収分光ならびに磁気円二色性を用いて調べた。 Mnナノワイヤでは、低温(6K)、強磁場(1.9T)のもとで、明確なMCDシグナルが観測された。これはMnナノワイヤが、低温では磁場印加方向に磁化されていることを示す。またMCD強度の温度依存性を調べたところ、100K以下の低温領域では温度上昇によるMCD強度の減少は見られなかった。すなわち、ナノワイヤでは、MCDシグナルが観測されるもののバルクと同様の反強磁性秩序を示した。 一方、Mn単原子鎖においても、MCDシグナルが観測され、その強度はT=6K、H=1.9T条件下でナノワイヤと同程度であった。しかしながら、MCD強度の温度依存性は、Mn単原子鎖が常磁性状態にあり、反強磁性-常磁性転移温度がバルクやナノワイヤに比べて低温化していることが示唆された。またMCD強度の磁場依存性からは、Mn原子間に強磁性的相互作用が働いていることも示唆される。 以上の結果から、低次元ナノ構造体では、その大きさや形状、次元性により、ナノ構造の持つ磁性が大きく変化することが明らかとなった。
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