研究概要 |
遺伝学的手法が導入された原始脊索動物カタユウレイボヤにおいて、トランスポゾンを用いた技術により突然変異体を単離する基盤を形成することを目的としている。高効率に変異体を作製できるトランスポゾンベクターの構築は遺伝子機能の解明において必須である。今年度の研究においてUAS-Gal4システムを応用した新しいエンハンサートラップベクターが、従来のベクターよりも高効率に遺伝子内に挿入されることを突き止めた。具体的には、このベクターのおよそ80%が遺伝子近傍に挿入された(従来のベクターは約60%)。つまり新しいベクターにより構築された挿入系統は変異体のよいソースとなる。実際にこのベクターにより作製された系統から変異体をスクリーニソグし、新奇核内受容体と脱リン酸化酵素をコードする遺伝子が破壊されたと推定される変異体を単離した。 カタユウレイボヤでは、Minosが形質転換に利用できる唯一のトランスポゾンであった。Minosに加えてもう一つのトランスポゾンの利用がホヤの遺伝学の発展に効果的である。本年度の研究において、Sleeing Beauty(SB)トランスポゾンの活性型フォームがカタユウレイボヤにおいてMinosと同程度の効率で形質転換を引き起こすことを突き止めた。このトランスポゾンの転移酵素を生殖細胞で発現させた系統も作製済みであり、今後その系統を用いて変異体作製ベクターとしての利用を目指したい。 組織分化や細胞動態を可視化することは変異体の表現型の観察に重要である。本研究にて幼生の中枢神経系をKaede蛍光タンパク質で可視化した系統を作製した。その系統を使いホヤホヤ成体の中枢神経系が形成されるメカニズムや遺伝子Ptf1a,Hox10の機能を解明した。また細胞周期可視化プローブをホヤに導入し、初期胚の表皮細胞で観察される特徴的な細胞周期変動が神経系の形成に必須であることを突き止めた。
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