近年、遺伝暗号をリプログラムすることで、複数の非蛋白質性アミノ酸を含む特殊ペプチドの翻訳合成が可能となった。しかしながら主鎖に特殊な構造を持つアミノ酸の使用は限られており、これはD体アミノ酸やベータアミノ酸が翻訳系と適合していないと考えられているためである。しかしながら過去の報告には、第75塩基がデオキシ型である、アミノ酸の指定に終止コドンを用いている、加水分解酵素が混入しているなどの問題点がある。そこで我々は、これら問題点を解決することでD体アミノ酸や、ベータアミノ酸の導入が可能になると仮説を立て、本研究により検証した。その結果、平成20-21年度の研究で、D体のアミノ酸について6種類のアミノ酸が効率よくペプチドに導入されることを見いだした。平成22年度は、これらD体アミノ酸を複数個導入することを試みた。前年度に開発した方法を用い、mRNAの配列中に連続したD-Pheを指定するコドンを並べ、ペプチドの翻訳合成を試みた。しかしながら、ペプチドの合成量は検出限界以下であった。我々は、(1)リボソームP部位のD-Pheがペプチドの伸長を阻害している、もしくは(2)D-Pheは側鎖が大きいため連続した導入には無理があると考えた。そこで、2つのD-Phe間にL-Tyrを挟んだものや、D-Pheの代わりにより側鎖の小さいD-Alaを用いたが、ペプチドの合成量は検出限界以下であった。本結果はリボソームに、複数のD体アミノ酸の導入を排除する何らかの機構があることを示しており、これは将来解明すべき研究課題である。さらにD体アミノ酸の他に、ベータアミノ酸を含むペプチドの翻訳合成を試みた。その結果、いくつかのベータアミノ酸について、効率よくペプチドへ導入されることが分かった。本研究で得られた知見は、特殊ペプチドのライブラリー化に有用であり、特殊ペプチドの創薬への利用を促進すると期待される。
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