研究概要 |
近年,鳥類の急激な飛来個体数の減少が世界中で顕在化しており,餌場としての干潟・湿地生態系の保全や再生による飛来数の回復が喫緊の課題となっている.しかしながら,これまで鳥類の食性解析研究では,採餌物が全く確認できない事例が多数みられるなど,真相はいまだ謎に包まれている.したがって本研究では,干潟・湿地における鳥類の餌資源の解明を目的としている.特に,小型シギ類が堆積物表面に存在するバイオフィルムをどの程度利用しているのかについて焦点を当てている. 本年度実施した研究内容は以下のとおりである.(1)国内5カ所の干潟・湿地において,望遠ビデオカメラを用いて採餌行動を撮影するとともに,鳥糞・餌生物を採取した.(2)撮影動画を用いて,採餌速度や採餌物サイズについて画像解析した.(3)鳥糞および餌生物中の炭素および窒素の安定同位体比を分析した.(4)ドームカメラ(新規購入)を用いて,干潟冠水時における採餌行動の撮影テストを実施した.(5)カナダ国・米国の研究者と連携し,米国湿地における小型シギの食性に関する研究の立ち上げ作業を開始した.(6)安定同位体比の海洋生物生態への応用に関する著書(分担執筆)および採餌モードと干潟堆積物の固さとの関係に関する論文を公表した. 本年度実施した研究成果の社会への説明・発信は以下のとおりである.(1)研究内容を紹介するホームページを作成した.(2)2カ所の現地調査場所においてアウトリーチ活動を実施した.(3)干潟における鳥類の食性や採餌・排泄が干潟の物質循環に及ぼす影響に関して研究している大学やNPOの研究者に参集いただき,「干潟における物質循環と鳥類の役割に関する講演会」を主催した.
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